ジャッポネーゼについて

そもそもこのブログは、ラインだのフェイスブックだのを煩わしく思って始められない(どだいこのアパルタメントのネット環境では無理な話だ)この私が、私のことを知る人に近況を報告するために始められた。そのなかには以前の仕事の関係で低年齢層の読者も含まれるわけで、諸先輩方においては内容が物足りないとか、説明が回りくどい(これはいつものことだが)と感じる方もいらっしゃると思うが我慢されたい。

ともあれ、結果的には低年齢層の読者を想定しているとは思えない文章ばかりができあがっているので、結局駄目かなと思いつつも、まあこれくらいなら多少は面白がってくれるだろうという生徒には一応このブログの存在を伝えたのである。したところ、「アクセス制限が掛かって読めない」との返事を戴いた。原因ははっきりしないが、どうも黒人だの物乞いだの黄色い猿だのという単語の含まれた記事のせいで機械的にフィルタリングに引っかかったようだ。窮屈な世の中である。

癪に障るのでもちろん開き直る。反省の必要は感じない。

以前「最近どこへ行っても幅をきかせている東アジアの某国の人」について書いたが、この街にいると日本の勢いが低下しつつあることを思わせるものがたまに見られる。たとえば、リストランテやオステリアの入口に貼られたJCBのシールだけがやたらと色あせていたり、もっと情けないものだとVISA、MASTER、JCBのマークがまとめて表示されているシールのうち、JCBにだけマジックで×が書かれていたりする。全体的には結構な割合で使えるので、バブル崩壊以降の長い低迷期を経ても未だ健在、と見ることもできるが、なにしろ来たばかりなのでその辺は判断がつかない。

しかし、街を歩いていて見かける東洋人は中国人か韓国人がほとんどではないだろうか。女性は特に化粧の仕方や着ているもので分かるし、男性も髪型で何となく分かる。遠目に見当を付けてからすれ違うと、話している言葉で答え合わせができるというわけだが、ほぼ間違えることはない。だいたい頭の上にサングラスを載せるなんてのは日本人はもうやらない。

アパルタメントを出てすぐ、カナル・グランデ沿いの道を歩いていたところで前に東洋人のご夫婦。リストランテの店員が彼らに「コンニチハ」と声を掛けるが、二人は手を振って拒否した。その後、ご婦人が不満そうな声色で夫に話しかけていたところを聞くと韓国の方だったようだ。そら西洋人には見分けはつかんだろう。

私もコープの店員に「ニイハオ」と話しかけられたことがある。日本人だと答えると、「コンニチハ」と切り返された。ちなみに私の前の客にはボンジュールと言っていたし、後ろの客にはグーテンタークと言っていた。客の方でもいちいち国籍が違っているのが面白いが、観光地の店員も器用なものである。

ちなみにこのコープ、正式名称をコープ・アドリアーティカ(Coop Adriatica)という。「アドリア海生活協同組合」と訳すほかはないが、どうも二つの単語のイメージがちぐはぐである。漁師か海賊の組合のようで無駄に格好いいと感じるのは私のエクゾティシズムか。

さて、それはそれとして、日本のメーカーの製品ならばそこかしこに見られる。観光客の首から提げているカメラがほぼ100パーセントNIKONかCanonなのは特に驚くことではないが、意表を突かれたところでは、私の部屋にはヴェネツィアでは珍しくクーラーが設置されている。これが何故珍しいかというと、ヴェネツィアの古い建物を毀損することなく取り付けるのが難しいため、歴史的価値の高い建物になるとまず付けられないからである、とヴェネツィア大学のドイツ人の先生が日本語で説明してくれた。それにもともと貴族の屋敷だったような建物はとんでもなく天井が高いので、空調を設置したところで効率が悪かろう。地中海性気候でやたらと乾燥していることもあり、窓を開けていれば充分にしのげる。これが真夏になったらどうなるのだかはまだ分からんが。

話がそれたが、その私の部屋のクーラーはMITSUBISHIである。シーズンになってからでは遅いだろうと思って先日そのフィルターを洗ったのだが、ふと見るとそこに「防カビフィルター」(原文ママ)と書いてあって妙な気分になった。そして振り返るとキッチンのグリルはPanasonicだったりもする。この外見で電子レンジ機能のないただのグリルというのは日本ではまず見ないタイプだけれども。

さらに、たまに用事があって本土に行くと日本車もよく走っている。日本に置いてきた愛車フゥイヌム(というペットネームを付けているのだが、これで車種がお分かりになるだろうか)と同じ型の車を見かけたときはちょっと側まで行ってみたくなった。

またあるときのこと、例のヴェネツィアーノ氏がやたらと自分のペンを見せてくるので何ごとかと思ったら、注意書きが日本語であった。そして得意げに「ジャッポネーゼ」とのたまう。そういうものはヴェネツィアで売っているのかと問うと、「MUJI」と返答があった。鉄道の駅舎(正式にはサンタ・ルチーア駅という名称だが、ヴェネツィアには鉄道の駅が一つしかないため、街中の案内表示などでもただ「鉄道(Ferrovia)」となっている)の近くに無印良品が入っているのである。

またもや話がそれるが、イタリアにはティッシュペーパーというものがない。仕方がないので最も紙の質が柔らかく、且つ手に入りやすいもので代用しようとすると食卓用の紙ナプキンかトイレットペーパーを使うことになるのだが、かたや紙質が硬く、こなたには審美的な問題がある。これらではどうしても我慢できないということになったら、この「MUJI」へ赴かれるとよい。「ポケットティッシュ」(原文ママ)が売られている。

ポケットティッシュと書いて思い出したが、先日すねのところに自分の名前と思しきカタカナのタトゥーを入れている若者がいたな。

収拾が付かなくなったので、フィルタリングに引っかかりそうな話はまた次回。