乱暴者のジジイあるいは小舟のシロップについて

例の民話の本も短いものがあと四話残るばかりとなった。どれも大して面白くないのだが、残しておくのも癪なので片付けてしまおう。


UN VECIETO BIRBO

あるところに、一人の小さな小さなジジイがいました。この小さな小さなジジイは、小さな小さな杖を一つ持っておりました。ある日のこと、小さな小さな部屋の掃き掃除をしておりますと、彼は小さな小さな1チェント硬貨を見つけました。彼は言います。「この1チェントで何が買えるだろうか?」ちょうどそのときリコッタを売り歩いている者が通りがかりましたもので、彼はバルコニーへ出て呼び止めます。そうして降りていきますと、1チェント分のリコッタを買いました。戻りましてそのリコッタを暖炉のカバーの上に置きますと、彼は言います。「これは夕食にちょうどいいだろう」そうして夕食の時間になりますと、この小さな小さなジジイは、小さな小さな杖を持って小さな小さな部屋へ戻りました。その時です、彼は小さな小さなハエがリコッタにとまっているのを見つけました。「ああ、こん畜生、待っておれよ!」彼は怒り、杖を取り上げますとリコッタをついばむ小さな小さな虫けらを司法に提訴致しました。判事様は言います。「分かった、それは深刻な問題だ。よし、その小さな小さな虫けらを見つけたら、奴がどこにとまっていようともその杖でぶん殴ってやるといい。」「はい、承知致しましたでございますです。」するとまさにそのとき、判事様の鼻にハエがとまりました。このジジイはそのハエを見て、まったく躊躇うことなく力一杯ぶん殴りました。つまり判事様の鼻を打ったのです。「ああ、この乱暴者のジジイめ…」判事様はいいました。「殴ったな…俺様を打ったな!」ジジイは答えます。「いえいえ、あなた様は仰いませんでしたか。小さな小さな虫けらを見つけたらどこにいようとぶん殴れと?…あなたの鼻に奴がとまっていたのです、ですから私はあなたが仰ったとおりにひっぱたいたのですよ。」判事様はジジイの言うことが道理に適っているのが分かりましたので、鼻を打たれるに任せました。そしてこの小さな小さなジジイは小さな小さな杖を持って家に帰り、至極平和にリコッタを食べたということです。


……ここでリコッタと訳したのは「puina, puineta」という単語である。これまで結構な量のヴェネツィア料理本を読んできたつもりだが、見覚えのない言葉だったので一応記しておく。

リコッタにハエがとまったので裁判所へ駆け込む、という行動の是非は措くとして、ここは判事というものが如何にもったいぶった奴らであるかを読み取ればいいのだろうか。話が短いせいもあってどうも物足りない。では次。

 

SIROPO DE BARCAZZA LA FREVE DESCAZZA

あるところに一人の男がありまして、彼は何ヶ月もの間、医者でも治せないひどい熱病にかかっておりました。ある日のこと、一人の友人が訪ねてきまして、調子はどうかと彼に尋ねます。彼は、相変わらず悪いよ、僕から何もかも取り去ったとしても、この熱病だけはなくせないだろう、と言います。するとこの友人は言いました。「まあ俺の話を聞きなよ。まず信心深いやつを一人見つけてだな、そいつに我らが主の十字架のところへ行ってもらう。そしてそれをちょこっと削って、その一欠片をいただくんだ。それをお前のところへ持ってきてもらったら、湯を沸かした鍋に入れてシロップを作るといい。それを飲めば絶対にお前は治る。まだそんなに使い込んじゃいないだろう、それくらいの費用はあるはずだ。」病人は言いました。「ああ! どうか、そんな人が見つかればいいな…喜んでお願いするのに。」この友人はそれを聞いて言いました。「俺が取りに行ってやるからさ、旅費を出してくれよ。」そこでその病人は小箱を取り出し、たくさんのゼッキーノ金貨を数え始めました。「これを持っていって使ってくれ。」「よし」友人は言いました。「すぐ行ってくるよ。」彼は挨拶をして部屋を出ました。扉を出ますと、この友人は掌の上の四つの金貨を見て言います。「まったく、これじゃ着く前に使い切っちまうな。だったらこのまま俺が貰っとく方がいいか。」そこで彼は数日の間身を隠し、それから舟小屋へ行って最初に見つけた小舟を削って欠片を取りました。そうしてその小舟の欠片を紙に包むとあの病人の家に行きまして、それを実際に聖なる十字架のところへ行って持ってきたかのように見せました。するとこの哀れな病人は木片にキスをしてすぐさまシロップを作り、それを飲み干します。俗にChi ga fede, lassa le crossole,「信仰を持つものは松葉杖を捨てる:信じる者は救われる」といいますが、これは真実です。実際にこのキリスト教徒は例のシロップをすっかり信じきっておりましたので、神も恩寵をお示しになったのでしょう、熱はすっかり治ってしまいました。そういうことで、el siropo de barcazza la freve descazza.「小舟のシロップは熱を払う」とも言うようになったのです。


……文中にすべて書いてあるので、私の方で特に記すことはない。