大鴉の王について

RE CORVO

あるところに王様と女王様がおりました。女王様はご懐妊なさり、順調にご出産なさいます。が、ご懐妊中に誓いに背くことをなさったため、彼女は赤ん坊の代わりに大鴉をお生みになりました。その大鴉はすぐにバルコニーから空へ飛び去り、それから二十年の月日が流れます。

ちょうど二十年目となったとき、彼はそのバルコニーへと戻ってきました。父と母の部屋へ入り、彼はこう言います。「ガァ、ガァ、俺は結婚したい。パン屋の娘がいい、一番上の娘だ。」両親は答えます、「誰がお前などと連れ添うものか、お前のような大鴉と結婚だと?…行け、ここから出て行け!」彼は言いました、「いいか、よく聞け、できなければお前たち二人とも殺す。」そうして両親はパン屋のところへ行き、自分たちの息子の大鴉が長女を嫁に欲しがっていると言いました。パン屋は、大鴉の嫁など願い下げだ、娘を嫁にはやらないと答えました。そこで彼らは一袋の金を与え、パン屋が首を縦に振るまであらゆる手を尽くしました。

その夜、例のパン屋の娘が普段通りに玄関の外に座り込んでおりますと、美しい若者が通りがかりました。彼は言います。「美しいお嬢さん、あなたが大鴉の王の嫁になると聞いてお気の毒に思います、彼はきっとあなたの肩やお洋服に糞をしますよ。」「彼が楽をさせてくれるなら」彼女は言いました。「楽をさせてくれるならいいけど。でもそうでなければ、殺してやるよ。」若者は挨拶をして立ち去ります。歩きながら彼は心の中でこう言いました。「お前が私を殺す前に、私がお前を殺してやろう。」

そうして大鴉がパン屋の長女を嫁にする日が来ました。夜になって彼らが寝所に入りますと、大鴉は屋敷中が寝静まるのを待ち、花嫁の首を絞めて殺します。そしてバルコニーから飛び立っていきました。

朝になり、女中が珈琲を持ってきました。彼女は扉をノックしますが、返事がありません。もう一度ノックしますが、やはり返事はありませんでした。そこで皆して扉を打ち破りますと、花嫁がベッドで絞殺されているのを見つけました。「ああ、あの極道者の大鴉め」両親は言いました。「クズめが!」

それからまた一年が経ち、彼はまたバルコニーへ戻り、父と母の部屋へ入ってこう言います。「ガァ、ガァ、俺は結婚したい。パン屋の真ん中の娘だ。」両親は答えます、「出て行けこの極道者、クズめ、一人殺しておいて、またもう一人も殺すつもりだろう。」大鴉は言います。「あの娘が間違ったことを言わなければ殺しはしなかった。とにかく今は真ん中の娘がほしい。できなければお前たち二人とも殺す。」

そうして両親はまたパン屋のところへ行き、どうにかして真ん中の娘を大鴉の嫁にほしいと言います。「何を仰いますか」パン屋は言いました。「真ん中の娘も嫁に出せというのですか、長女を殺した奴のところに?…だめです、娘はやれません。」そこで彼らはまた一袋の金を与え、どうしても娘を嫁に出してほしいのだと訴えます。パン屋は首を縦に振るしかありませんでした。

その夜、件のパン屋の娘が普段通りに玄関の外に座り込んでおりますと、とても身なりのよい、美しい若者が通りがかりました。彼は娘に近寄ってきて言います。「美しいお嬢さん、あなたが義兄である大鴉の王の嫁になると聞いてお気の毒に思います、彼はきっとあなたの肩やお洋服に糞をしますよ。」彼女は言いました。「彼が楽をさせてくれるなら。楽をさせてくれるのだったらいいけど。でもそうでなければ、殺してやるよ。」若者は挨拶をして立ち去ります。歩きながら彼は心の中でこう言いました。「お前も私には相応しくない。」

そうして大鴉がこの娘を嫁にする日が来ました。父と母は、一人目と同じようなことをしないようにと何度も彼に言い聞かせますが、彼はずっと「ガァ、ガザ、ガァ」としか答えません。夜になって彼らが寝所に入りますと、ベッドに入った途端に大鴉は花嫁の首を絞めて殺します。そしてバルコニーから飛び立っていきました。

朝になり、女中が珈琲を持ってきました。彼女は扉をノックしますが、誰も返事をしません。もう一度ノックしますが、やはり返事はありませんでした。そこで皆して扉を打ち破りますと、花嫁がベッドで絞殺されているのを見つけました。そこで王はすべての猟師を呼び集め、その辺り一帯のすべての鳥を殺すように命じました。あの大鴉も含めて殺そうというのです。そうして猟師たちは多くの鳥を仕留めましたが、あの大鴉がその中にいたかどうかは誰にも分かりませんでした。

それからまた一年が経った頃のこと、あの大鴉はまたバルコニーへ降り立ち、父と母に向かって言いました。「ガァ、ガァ、俺は結婚したい。パン屋の末娘だ。」「この極道者」両親は答えます、「お前はもう二人も殺した、三人目も同じように殺すつもりだろう!…行け、ここから出て行け!」大鴉は言います。「もし結婚できなければお前たち二人とも殺す。」そうして両親はまたパン屋のところへ行き、どうにかして末娘も大鴉の嫁にほしいと言います。パン屋は言いました。「偉大なる陛下、何をお考えなのですか?…もう二人も殺されました、三人とも殺されるなんて御免です。」そこで王はまた一袋の金貨を与え、どうあっても娘を嫁にほしいのだと訴えます。パン屋は娘を嫁に出さざるを得ませんでした。

その夜、件の娘が玄関の外に座り込んでおりますしたところへ、美しい若者が通りがかりました。彼は娘に近寄ってきて言います。「美しいお嬢さん、あなたが二度も義兄となった大鴉の王の嫁になると聞いてお気の毒に思います、彼はきっとあなたの肩やお洋服に糞をしますよ。」彼女は言いました。「そんなことは問題になりません。もし大鴉の王様が私の肩や服に糞をなさったら、それを拭って着替えればいいのです。ですから、彼はただ彼のなさりたいようにしてくだされば。」彼は立ち去り、心の中で言いました。「いいだろう、お前は私に相応しい。」

そうして大鴉がパン屋の末娘を嫁にする日が来ました。彼が部屋に入る前、父と母は他の二人と同じようなことをしないようにと何度も念押しします。彼はこう答えました。「ガァ、ガァ、この娘は殺さない。」

朝になり、珈琲が運ばれてきて扉がノックされました。すると花嫁が言うのが聞こえます。「今開けますね。」その返事を聞いて屋敷中の皆が大喜びしました。王と女王も彼女のところへ様子を見にいらっしゃいました。

この娘は大鴉の王を死ぬほど愛していました。彼女はいつも彼を肩の上に乗せて運び、キスをし、愛おしみ、あらゆる世話を焼きました。彼が粗相をして背中を汚しても、それを拭うだけで気にもかけないのでした。

ところで、この大鴉には叔母、父親の妹となる人がいました。ある日この叔母が娘に言います。「本当に、あなたがあんな禽獣をここまで愛するなんて思いませんでしたよ。」彼女が毎日こう言うのでうんざりしてしまい、ある日この嫁は言いました。「ああ、聞いてください…彼はとても美しい青年なんですよ。」「なんですって」叔母は言います。「青年ですって?」嫁は言います。「ご両親の目にはいつも大鴉に映るようですが、一緒に部屋にいるときは、彼はどう見ても最高に美しい若者なのです。でもお願いですからこのことは他で話さないでくださいね。このことを話してしまったら彼は姿を消さなければならず、私は彼に二度と会えなくなる、と言っておりましたので。」―「黙っています」叔母は言いました。「誰にも話しません。」実際のところ、彼女はこのことを一切言いませんでした。

昼食の時間になりましたが、大鴉の姿は見えません。夕方になっても、夜遅くなっても…やはり戻ってきません。嫁は大鴉が恋しくて嘆き悲しみました。彼の両親である王と女王は言います。「奴のことはもう放っておきなさい、きっと死骸でもついばみに行ったのです。こうなったら貴女がここの主人だと思いなさい。私たちも自分の娘のように大切に思っていますし、この先はずっと女王として生きていきなさい。」すると彼女は、「私は彼を探しにいきたいと思います、彼なしでは生きていけません。」そして「彼を見つけるまで旅を続けたいと思いますので、恐れながら私に鋼鉄の靴を三足と巡礼の衣装を作ってくださいますでしょうか。」と応えました。


……大鴉が人の首を絞めるという絵柄がどうしても頭に浮かばなかったので、下読みの段階では喉を食い破ったのかと推測した。が、strangolareという言葉は落ちついて見ればstringere[締める]+gola[喉]の合成語っぽいので絞殺以外の何物でもない。タブーを破った末娘の話にもあるように、部屋に入った途端に人間形態になったということなのだろうが、これまでの経験からいうと、そもそもそういった整合性はあまり考慮されていないような印象も受ける。

ここまでで内容的には三分の一程度である。慣れた方は長女が殺された時点で先が読めたはずだが、こんな感じの「3」縛りがこの後2サイクル繰り返されていくだけである。この話は例の民話集の中でただ一つ群を抜いて長いものであるのだが、期待したほど大した内容ではなかった。考えておきたいのは、中心人物が何故禽獣の中で敢えて「大鴉」であるのかという点だが、聖書はともかく、北欧神話と関係するとも考えにくいし、倫敦塔など論外である。根っこのところで繋がっているような気がしないでもないが、ともあれ後半の登場人物(大鴉と同様、厳密にいうと人ではないのだが)を見たところどちらかというと古代ローマ風の世界観に近いので、その辺が出揃ってからもう一度考えることにしたい。