七年間口を利かなかった娘について

以前も同じような展開があったと思うが、慣用的な悪態を吐いたらそのまま文字通りのことが起きるというのはどういう理屈なのだろう。Benedetto, maledettoという語彙の周辺を見ていると時折そういう気配を感じることもあるのだけれども、イタリアもまた言霊の国なのだろうか。

男どもがどうしようもなく阿呆であり、女たちがひたすら逞しいのもいつものことであるが、今回の冒険はいつにもまして長く厳しいものとなっている。だからといってガリバーのような風刺や、宝島のように奇想天外な展開があるわけではなく、ただ「お強いですね」とか「えげつないですね」としか言いようのないところにヴェネツィアの土地柄が伺えるような気がせんでもない。今回の主人公の強さについて、その絶対値はハリウッド映画並みではないかと思うのだが、ではこの話を映画にアレンジできるかと考えると何かが噛み合わない。ともあれ見ていただこう。


LA SORELA MUTA PER SET'ANI

あるときのこと、父と母、二人の息子、そして一人の娘という一家がありました。父は旅商人をしておりまして、ある日も出かけていきました。そうしたところで二人の息子が母に言います。「僕たちはお父さんに会いに行ってくるよ。」母は言います。「ええ、行ってらっしゃい。」そして二人の若者は立ち上がると、出かけていきました。

彼らはある森にたどり着き、そこで普段のように遊び始めます。少し経ったところで、彼らは遠くの方に父がいるのを見つけました。そこで彼らは駆け寄っていき、足にまとわりついて言いました。「お父さん、お父さん、お父さん!」父は機嫌が悪かったので、二人の息子にこう言いました。「邪魔するんじゃない!…どこかへ行け、目障りだ!」しかし子どもたちは気にせず、どこかへ行こうともしません。父は怒りっぽい人でしたので、いきり立って言いました。「畜生め、悪魔に連れていかれてしまえ!」その瞬間、悪魔が現れて二人とも連れ去って行ってしまいましたが、父は何も見ていませんでした。

父が家へ帰ると、彼の妻は息子たちに会わなかったかと尋ねました。彼は、誰にも会わなかったと答えます。彼女は何か悪いことが起きたのではないかと想像して悲嘆に暮れ、卒倒してしまいました。そして子どもたちを探しに行くと言い出します。そこで父は彼らに悪態を吐いたこと、その後で姿が見えなくなったことを話しました。

この兄弟の妹は、兄たちのことを聞いて言いました。「危ない目に遭うだろうけど、私が彼らを探しに行くわ。」父と母は行かせようとしませんでしたが、彼女は、これは私の役目、私の運命だ、私は行きたいんだと何度も訴えました。とうとう彼女はいくらかの食料を携え、旅立ちました。

彼女は歩きに歩き、ある老人に出会いました。その老人は言います。「どこへお行きかね、お嬢さん?」彼女は兄弟を探していること、彼らがどこにいるか分からないことを話します。するとその老人は言いました。「このまま進みなさい。もう一人のじいさんに出会ったら、彼が教えてくれるだろう。」そこで彼女は歩きに歩き、もう一人の老人に出会いました。この老人も同様に、もう少し先へ進んでもう一人の老人に会うといい、彼が教えてくれるだろう、と言いました。

歩きに歩き、彼女は三人目の老人に会いました。同じように二人の兄たちについて尋ねます。すると彼は言いました。「先へ進むと、鉄の門のあるパラッツォにたどり着くだろう。その門を開ければ、そこで一人の紳士に出会うはずだ。お前の兄に会ったかどうか、彼に尋ねなさい。彼が悪魔だとしても恐れてはいけない。」若い娘は勇気を振り絞ってそのパラッツォまで行きました。そして例の紳士に会います。彼は彼女に、ここで何を探しているのかと尋ねました。彼女は、悪魔が連れていった二人の兄を探しているのだと言います。その紳士は言いました。「よろしい!…この先へ行けば二十四個のベッドの並んだ大広間がある。彼らはそのベッドの上にいることだろう。」娘はその大広間へ行き、二人の兄がベッドに寝ているのを見つけて言いました。「あらお兄さん、どうしたの? ご機嫌な様子だけど!」兄たちは言いました。「こっちへ来てこれがご機嫌なものかどうか見てみるといいよ。」そこで彼女が傍へ行ってみますと、なにやら揺らめくものが見えました。なんとそれは沢山の炎だったのです。そこで彼女は、どうすれば彼らを助けることができるのかと尋ねました。彼らは言います。「七年の間、お前が一言も口を利かないでいられたら僕たちは助かる。でもお前はきっとあらゆる困難に遭うことだろうよ。」娘は言いました。「いいわ、分かったから大人しくしていてね。」彼女は外へ出ました。広間から出ますと、あの紳士が「自分の方へ来るように」と彼女に手振りで示しました。彼女はかぶりを振って「行かない」と示し、十字を切って出ていきました。

彼女は歩きに歩き、森へと戻ってきます。あまりに疲れていたので彼女は地面に倒れ伏し、眠ってしまいました。彼女にとって幸運なことに、そこへ狩りに来ていた一人の王様が通りかかりました。王は後ろに控えていた従者に言います。「ここに居るのは何と美しい女性だろう!」そして彼はその若い娘の傍へ行き、そこで何をしているのかと尋ねます。彼女は身振りで、何でもない、と答えました。彼は自分と一緒に来ないかと尋ね、娘は頷きます。王は、小声で話しても彼女がすべて理解しているのを見て言いました。「どうしたのですか? 話せない人というのは耳も聞こえないものですが、貴方はどうもすべて理解できているようだ!」彼女はそれを聞き、かぶりを振って、聞こえないのではないと伝えました。

そこで王は馬車に彼女を乗せ、家へ連れて帰りました。

家に着き、王は母親に、森で寝ていた娘を見つけた、彼女は話ができないが、彼女と結婚したいと言いました。母は、彼女は駄目だ、彼に相応しい娘ではない、彼女は駄目だと繰り返し言います。王は言いました。「もういい、十分だ。私の自由にする、私は彼女を伴侶にしたいんだ。」そうして彼は彼女と結婚しました。

この母親は底意地の悪い人でしたので、この嫁に大きな恨みを抱き、あらゆる種類の意地悪や嫌がらせをしました。それでもこの娘は決して話をしませんでした。

そうするうちにこの娘は懐妊し、あと数日で出産ということになりました。そこでこの母親は息子に偽の手紙を送ります。ある町でひどい飢饉が起き、領民たちはみんなろくに食べられないというのです。王は身重の妻を措き、準備をして出かけていきました。そして娘の出産の時が来ます。彼女は男の子を産みました。しかし例の女は産婆に言い含めてベッドに犬を入れさせ、赤ん坊は箱に詰めてそれをパラッツォの屋上へ隠しました。

可哀想な娘はすべてを知って心から泣きましたが、兄たちの苦難を思って黙り続けました。

その直後、母親は息子に手紙を書き、彼の妻が犬を産んだと知らせました。王はその手紙を読み、その様子を想像します。すぐに彼は母への返事を書き、妻についてはもう何も関知したくない、名誉が大事であるから、生計に足る金子を彼女に与えたうえで彼が戻る前に彼女を追い出しておくように、と知らせました。そこであの犬畜生の年増はどうしたでしょうか?…彼女は腹心の召使いを呼び、彼女を遠くへ連れていってそこで袋詰めにして海に沈め、衣服をすべて持ち帰るようにと命じます。召使いは、仰せのとおりに、と答えました。

翌日、この召使いは馬車と馬を用意し、あの娘のところへ行って言いました。「奥様、少し外の空気を吸っていらしたらどうですか?…どうぞおいでください、きっと外の空気はいいですよ!」彼女は頷き、召使いと共に出かけました。

海岸に着くと、召使いは娘に言いました。「さあ奥様、下の方へいらしてください。貴方を袋詰めにしてお召し物すべてを持ち帰るよう言い付かっております。」可哀想な娘はひざまずき、目に涙を浮かべて、どうか命ばかりは助けてくれるようにと身振りで訴えました。彼女は召使いに何度も頼み、そして召使いは袋詰めにはしないと約束し、髪を切ったうえで来ているものはシャツまですべて脱いでくれればいい、代わりにシャツとズボンは自分のをやる、と言いました。彼女は受け入れるほかありませんでした。そうして召使いは彼女の衣服を持って家に戻り、彼女は海岸に取り残されました。

数時間後、幸運なことに一隻の船がそこを通りがかりました。哀れな彼女は自分を乗せてくれるよう合図を送ります。船には兵士たちが乗っていましたが、彼らはその合図を見て海岸に近づき、彼女を乗せました。彼女が船に乗り込むと、彼らは「ボウズは何て名前だ?」(彼らは若い男を見つけたと勘違いしていたのです)と尋ねました。彼女は身振りで、何人かの若者と舟に乗っていたのだがその船が転覆し、彼だけが生き残ったのだと伝えます。兵士たちは言いました。「まあいい、話ができなくてもここじゃあ誰もお前を悪いようにはしないさ。」

戦いが始まって、彼女もまた大砲を撃つのを手伝います。女であることがばれないように、彼女はできることなら何でもしました。仲間たちは「彼」の腕前や度胸を見て、すぐに一目置くようになりました。

長い時が経ってその戦争に決着がつくと、彼女は職務を辞めたいと申し出て、彼らはそれを認めました。

彼女はそのとき居た土地からどこへ行けばいいのか分かりませんでした。なんとか彼女は朽ち果てた一軒の家を見つけ、夜になっていたのでその家へ入ってそこで休みます。そうして夜中になると、足音が聞こえてきました。彼女はじっと見張り、その家の裏手から十三人の強盗たちが出てくるのを目撃します。彼女は彼らをやり過ごし、それから立ち上がると、彼らの出てきたところから中に入りました。中へ入ると、広間の中心に整えられた大きなテーブルがあります。テーブルの上には十三人分の食べ物がありました。ものすごくお腹の減っていた彼女は、彼らに気付かれないように料理を少しだけ食べました。食べた後、まだ夜中でしたので、彼女はもと居た場所へ戻ります。強盗たちが帰ってきて、広間に入ってきました。

ここでこの娘が気付いて慌てたことに、彼女はお皿の上にスプーンを忘れていました。強盗の一人がそれに注目して言います。「おい、ここに密偵が来たかもしれないぞ。」仲間の一人が言います。「よし、もう一度外へ出るぞ、誰か一人はここで隠れていろ。」そうして強盗たちは外へ出て、一人はそこへ残りました。

安全だと思った彼女は家の中へ戻ってきます。彼女が入ってくるとすぐ、強盗が姿を現して言いました!「やあ、捕まえたぞ畜生め!…こうなったら落とし前は付けてもらうぞ!」哀れな彼女は驚いて、身振りでもって、彼女が話せないこと、どこへ行ったらいいか分からなくて偶然ここを通りがかったのだと伝えます。するとこの強盗は、怖がらなくてもいいと言い、お腹が減っていないかと尋ねたうえで十分な食べ物をくれました。そうするうちに他の仲間たちが戻ってきて、事の顛末を聞きます。彼らは娘に、こうなった以上ここにとどまって貰わなければならない、断るなら殺さなければならなくなる、と言いました。彼女はそれを受け入れるほかありませんでした。そうして彼女はそこに留まりました。

この強盗たちは決して彼女を一人にしませんでした。そんなある日、強盗たちの頭領が言います。「明日の夜、お宝を盗み出すために全員で王(彼はその王の名を言いました)のパラッツォへ行くので、お前も一緒に来る必要がある、断るならお前を殺す」彼女は身振りでもって、分かったと言いました。

その王は、この娘の結婚相手だったのでした。

彼女はすぐに偉大なる王陛下へ宛てて手紙を書き、十三人の強盗が明日の真夜中にお宝を盗み出し、彼を暗殺しに行くので、家の守りを固めるようにと知らせます。

王はその手紙を受け取るとすぐにすべての召使いを呼び、守りを固めて強盗がこのパラッツォにやってくるのに備えるように命じました。

夜の十二時ぴったりに、強盗たち全員とあの娘はパラッツォの門の前に到着します。彼らは安全だと信じ切っていましたので、門から入っていきました。最初に強盗たちの頭領、彼の後に五人の仲間が続きます。すると彼らは皆一瞬で殺されてしまいました。そこで残りのものはあちこちへと逃げ出し、あの娘を一人そこへ残していきました。お分かりだとは思いますが、彼女は強盗の格好をしています。

彼らは彼女を捕まえ、串刺しにするために王のパラッツォの正面に処刑台を据え付けました。

彼女が殺されるべき時が近づいてきます。処刑まであと一日となりました。彼女は身振りでもって、自分は王が彼女の死を命じるのを待っていると伝えます。王はその願いを許しました。彼は処刑台のところへ彼女を引き出してくるように命じます。そして彼女が階段の一段目を上ったとき、そのときはまだ三時だったのですが、彼女は身振りでもって、四時まで待って欲しいと伝えました。彼らはそれを認めます。

四時の鐘が鳴り、彼女が階段をもう一段上ったとき、地響きのような音が聞こえてきて、二人の戦士が現れました。二人の戦士はその伴侶を死に追いやろうとしている王の前へ出て、話をする許可を求めます。王は、言ってみよ、と言いました。そこでこの二人の戦士は、どういう訳でこの若者[訳注:男性形]に死を与えようとするのかと尋ねました。そこで王はその理由を彼に説明させようとしますが、彼はいつもどおりだんまりです。彼らは、この人は男ではなく、実は彼らの妹なのだと言いました。そして彼らは、どうして彼らの妹が話をしないのか、すべて王に説明し、彼女に向かって言いました。「さあ話して、もう俺たちは助かったんだ。」彼らはかの娘の許へ行きました。

そして彼女は衆人環視の前で、彼女が王の伴侶であると言い、彼女の赤ん坊を殺してベッドに犬を入れさせた、かの婦人の悪行について語りました。そして言います。「このパラッツォの屋上へ行ってそこにある箱を見つけ、私が産んだのが犬なのか、あるいは坊やなのかを見てみなさい。」王はすぐにパラッツォの上に人を遣り、箱を持ってこさせました。彼らが箱を開けると、そこには子どもの骨が残っていました。

そこで人々は皆叫びました。「彼女を追いやったやつはどこだ、あの女王と産婆を連れてこい!」彼らはそうして、その二人の老婆を串刺しにしました。そしてあの娘はパラッツォに戻って王とともに暮らし、二人の兄は廷臣の筆頭になりました。


……「ボウズは何て名前だ?」のところは
i ghe dimanda chi el xe(原文)
loro hanno domandato chi lui era(標準イタリア語)
they asked who he was(英語)
であって、名詞や形容詞に性別のある言語ならではの表現となっており、間接話法のまま日本語に直すとどうしても違和感が残るので例によって豪傑訳にしてある。髪を切って以降この娘はずっと男と勘違いされ、間接話法中では「el」で表されているところ、煩雑なので肝心なところ以外は注釈を付けていない。王が一目惚れしたほどの美人が髪を切った程度のことで男と勘違いされるというのもどうかと思うが、近代以降とでは女性の髪型についての感覚が違うだろうからそれは措く。

二人の兄は呪いが解けた後にどうやって妹を見つけたのか、という点については判然としないが、大方かの悪魔紳士が気まぐれに教えてくれたりしたのだろう。また、手紙が書けたのであれば、喋れないというのは彼女の冒険全体を通して大した障害にならないのではないかとも思うが、そこを否定するとすべてが崩壊するので突っ込んではいけない。さらに細かいことを言うと、ずっと監視されていたのに手紙を出す隙をどうやって見つけたのか、そもそも誰が手紙を取り次いだのか等、収拾がつかなくなる。

一時は母親の手紙を信じた王が「もうそんな女のことは知らんから追放しとけ」と言ったことが有耶無耶になったままなのがどうにも許せないのだが、近代の賢しらで文句を付けるのも詮無いことであろう。